新会長就任にあたっての抱負
ヒューマンインタフェース学会会長 竹村 治雄
10周年を迎えた学会の改革を進められた土井前会長から会長を本年3月の総会で引き継いだ竹村です。土井前会長が10年を経た学会の体制を盤石なものとし、安定した中に常に新しい時代の変化に対応できる体制を整えるための基本方針を固められました。後任の会長としては、この方針を継承するとともに、グローバル化に向けて加速する社会の変貌に対応できる仕組みを学会の中に作っていきたいと考えています。
ヒューマンインタフェース学会の所掌とする学問分野は、本質的に学際的な分野であり、様々な専門家が協力して作り上げてきた学問分野であるといえます。このことは、言い換えれば常に新しい分野の専門家が参画しやすい環境を整えていることが分野の発展に重要であるといえるのではないでしょうか?私が専門とする情報科学の分野でもインタフェースの研究といえば、最初は非常に高価な計算資源をいかに効率的に稼働させるかが研究の課題であり、その後計算資源のコストが低下することにより、人間の生産性や満足度により重きが置かれるようになり、さまざまな認知心理学的な考えがもたらされました。さらに会社や大学といった組織での計算機の利用に関しては、社会学的な見地からの検討も取り入れられるようになりました。最近では、個々のインタフェースだけでなく、計算機の利用を通じた経験をどうデザインするかといった観点での検討も必要と考えられるようになっています。また、デザインの過程でも、システムを提供する側の都合によるデザインではなく、システムの利用者を中心としたデザインへとパラダイムシフトが起きました。これと同じように、学会運営も運営者側の視点による議論だけでなく、学会員の視点からの議論を加え、学会員の目に見える改善を探ることが必要だと考えます。私たちの学会が、個々の会員のニーズをどれぐらい把握し、それにどのように答えているのか?そういった原点からきちんと検証していきたいと考えています。具体的には、会員のニーズにこたえるべく実施している現在の各種事業について、アンケートなどの方法で、その効果を検証していく必要があると考えています。学会のWebページ整備、学会誌の発行、論文誌の発行、研究会の開催、シンポジウムの開催、ニューズレターの発行が、本当に会員の求めるものであるのかどうか、そしてどの程度会員の役に立っているのかを可視化したいと考えています。これにより、現在学会が置かれている状況を正確に把握することができ、さらなる改善に向けた計画を作成できるようになると考えます。すでに、会誌編集委員会では、従来の編集にとらわれない形での学会誌の編集企画について活発な議論が始まっています。これらの効果は、徐々に目に見える形で実現されていくことを期待しています。
土井前会長の元で学会のWebページの改善もなされました。これにより従来のWebページよりは迅速に情報発信が行える体制が整いました。今後は、この機能を活かした情報発信に努めていきたいと考えています。また、爆発的に普及するFacebookやTwitterといったSNSを利用する方向でも検討していきたいと思います。これにより、従来のプル型の情報発信だけでなく積極的なプッシュ型の情報発信への転換を図り、会員にとって常に学会が身近な存在であることができるようにしたいと思います。
教育に関する取り組みも大切だと考えています。11年前にMITが開始した講義資料の無償公開であるOpenCourseWareの運動は、その後教育資源の無償開放であるOER運動の発展とともに進展し、今ではさまざまな教育資源をインターネット上で得ることが可能となっています。しかしながら、日本語での情報発信はまだ少なく、またヒューマンインタフェース分野は文化的、社会的な背景と密接に結びついている部分も多く、英語の教材を日本語訳するだけでは不足する部分が多くあります。そういった意味でも、学会としてこの分野の教育にも力を入れていきたいと考えています。
会長就任にあたって、思いつくことを思いつくままに述べさせていただいた感は否めませんが、会員一人一人が学会の将来の夢を期待を持って語れるような学会へと本学会を発展させるために努力したいと思いますので、どうぞ皆様方のご協力をよろしくお願い申し上げます。
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